研究概要 |
本研究では,B細胞抗原レセプター(BCR)との親和性の異なる抗原でB細胞を刺激することによるB細胞の応答性の変化およびそのメカニズムを解析し,これをもとにB細胞の機能を任意に制御する方法を確立することを目的とした. 1) 昨年度の研究により,カルボキシメチルデキストランと複合体化させたβ-ラクトグロブリン(β-LG)は天然型のβ-LGと比較してIgEを誘導しにくく,IgG1を誘導しやすいことを明らかにした.このメカニズムを明らかにするために,両抗原で免疫したマウスのT細胞応答の差異を解析した.その結果,複合体は天然型と比較して,低いIL-4,IFN-γ,TGF-β,IL-10の産生能を持つT細胞を誘導した.この結果からは,なぜ複合体がIgEを誘導しにくく,IgG1を誘導しやすいのかを説明することが出来ず,複合体の抗体産生に対する影響はT細胞を介さないメカニズムにより制御されていることが示唆された. 2) 上記の結果より,複合体はB細胞に直接働きかけてIgEとIgG1の誘導に影響を与えていることが示唆された.そこで,BCRとの親和性の異なる抗原が,B細胞に与える影響を解析した。天然型の卵白リゾチーム(HEL)でHEL特異的B細胞を刺激すると増殖応答・抗体産生応答ともに濃度依存的に増加するのに対し,還元カルボキシメチル化HEL (RCM-HEL)を用いて刺激した場合には高濃度で各応答が強く抑制された.この結果は,BCRとの親和性の異なる抗原は全く異なるB細胞応答を誘導することを示している. 3) 最後に,HELおよびRCM-HELでB細胞を刺激し,細胞内に導入されるシグナルを解析した.HELがsykの持続的で強いリン酸化を誘導したのに対し,RCM-HELは一時的な活性化しか誘導できなかった.このシグナルの違いが上述のようなB細胞応答や抗体産生に異なった影響を与える一因であると考えられる.
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