研究課題
生体内では様々な脂質が代謝され、生理活性物質として作用することが知られている。近年、アラキドン酸は生体内の酵素により急性炎症時に産生されるprostaglandinなどのエイコサノイドに変換されるだけでなく、回復期にはlipoxin(LXs)へと代謝され、特異的な受容体を介して抗炎症・免疫制御作用を持つことが明らかにされている。一方、腸内細菌は400種以上、約100兆個存在することが知られている。これらの腸内細菌の持つ様々な酵素により、生体内の脂質が代謝され、その由来産物が宿主の生体内で生理活性を示すことで免疫系を中心として様々な作用をおよぼすことが想定される。本研究では、腸内細菌による脂質代謝産物の解析、および宿主に及ぼす影響を検討することを目的としている。本年度は、前年に大腸菌を用いて作製を行ったbacterial P450のリコンビナント酵素をポジティブコントロールに、HPLC-MS/MSを利用した脂質代謝産物の網羅的解析を行うための条件検討を進めている。SPFマウスの便にEPAを混ぜ培養した後に解析を試みたが、夾雑物の影響のためピークの強度が十分でなかった。この点を改善していくことが今後の課題である。また研究実施計画に従い、アラキドン酸由来のlipoxin A4およびEPA由来のRvE1について、宿主の粘膜免疫、特に腸管における生物活性の評価を行った。動物レベルの実験から、lipoxin A4の投与はLPSによって引き起こされる血清TNF-αの増加を抑制し、炎症を緩和することを明らかにした。その機序として、マクロファージ様細胞および腸管上皮様細胞の共培養系を用いた細胞レベルの実験から、lipoxin A4がIκBの分解およびNF-κBの核内移行を抑制することで炎症を緩和することを明らかにした。また、RvE1については、その投与によりデキストラン硫酸ナトリウム誘導性マウス腸炎モデルにおいて炎症抑制効果が認められた。さらに抑制機序として、特異的受容体であるChemR23を介したNF-κB核内移行の抑制を明らかにした。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
J.Pharmacol. Exp.Ther. 332
ページ: 541-548
Inflamm.Bowel Dis. 16
ページ: 87-95