研究概要 |
必須アミノ酸トリプトファンの代謝産物キヌレン酸は脳内でニコチン作動性α7アセチルコリン受容体を介して, 神経伝達物質ドーパミン放出を抑制する. 食事を介して脳内のキヌレン酸濃度を調節するができれば, ドーパミン分泌を調節でき, パーキンソン病や統合失調症などの神経疾患を改善できる可能性がある. 本年度は, 高血糖およびホルモンなど脳機能に影響をおよぼす因子がキヌレン酸産生とドーパミン機能におよぼす影響について検討した. ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病ラットにおいて, 脳内キヌレン酸濃度の上昇とドーパミン代謝回転抑制が認められた. キヌレン酸前駆体であるキヌレニン濃度には変動が認められなかったことから, 糖尿病によってキヌレニンからキヌレン酸への生合成が亢進したことが示唆された. ラットへのグルコース腹腔内投与によっても, 脳の細胞外キヌレン酸濃度が上昇し, ドーパミン濃度が低下した. キヌレン酸濃度上昇とドーパミン放出抑制を示す結果は, キヌレン酸産生を調節することによってドーパミン分泌を正常な範囲に調整できる可能性を示すものである. しかし, ラット脳組織切片を高濃度のグルコースを含む培地で培養しても,キヌレン酸産生は影響を受けなかった. このことから, 高血糖は直接キヌレン酸産生酵素に影響をおよぼすのではなく, 他の経路を経た間接的な影響である可能性が考えられた. また, ラットにチロキシン含有食を4週間に渡って投与したが, キヌレン酸産生およびドーパミン代謝回転には影響は認められなかった.
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