プロバイオティクスがどのような機構で宿主あるいは腸内常在菌と相互作用(cross-talk)し、宿主に有益な効果をもたらすのかについての詳細は明らかでない。そこで我々は、腸管出血性大腸菌O157:H7による無菌マウスの感染死をモデル動物実験系として用い、マウス感染死とその感染死予防を腸内フローラと直接cross-talkする腸管上皮細胞の応答から言及した。無菌マウスにO157を投与すると7日以内に全例が死時至るが、O157と共に典型的なプロバイオティクスであるBifidobacteriun longum(B. longum)を投与すると感染死は完全に予防されることを見出した。一方、成人の腸管内に常在するビフィズス菌であるBifidobacterium adolescentisを投与しても感染死が予防できない手とも明らかにした。O157単独投与マウスおよびB. adolescentis+O151投与マウスの大腸上皮細胞の遺伝子発現プロファイルはB. longum+O157投与マウスの遺伝子発現プロファイルと大きく異なり、O157単独投与およびB. adolescentis+O157投与マウスの大腸上皮細胞やは特に炎症に関わる遺伝子発現が増加していた。事実、これらのマウスの大腸では軽い炎症が生じていたことから、大腸上皮におけるTLR4のシグナルによりその炎症が生じている可能性が示唆された。そこでTLR4の下流の分子であるMyD88を欠損させた遺伝子改変マウスを無菌化し、O157投与時の腸管上皮の応答性について調べた。その結果、MyD88-/-マウスでもO157投与により大腸での軽い炎症が生じ、マウスは死に至ることが明らかになった。O157はシガ毒素を産生するため、その毒素をコードする遺伝子を欠損させた遺伝子改変O157を作製し、同様に無菌マウスへの投与試験を行ったところ、大腸での軽い炎症は生じなかった。従ってO157投与時に認められる大腸での軽い炎症はO157が産生するシガ毒素によって生じ、B. longum の前投与によりその毒素による炎症が抑制されることが明らかになった。
|