カルパインは、細胞内においてCa^<2+>によって活性が制御されるシステインプロテアーゼで、基質を限定分解して、その構造や機能を制御するモジュレーターとして機能する。哺乳類には組織普遍的または組織特異的に発現するカルパインが存在するが、これらの生理機能は多様であり、活性制御不全が脳神経・筋・代謝系など種々の病態の要因になることが明らかになっている。このことは、我々が摂取する食物の消化・吸収や免疫という生体維持の根本を担う胃腸でも例外ではなく、胃ガン発症との関連が示唆されているが、胃腸におけるカルパインの機能は全く明らかにされていなかった。申請者はこれまでに2種類の胃腸特異的カルパインnCL-2とnCL-4に着目し、これらが共に胃粘膜上皮表層粘液細胞(pit細胞)に限定して発現することと、nCL-2が細胞内小胞輸送系の制御に関与することを示唆する結果を得た。これらの結果をふまえ本年度は、胃におけるカルパインの機能と胃疾患との関連をさらに明確にする目的で、nCL-2とCL-4の遺伝子ノックアウト(KO)マウスの作出・解析を行った。その結果、nCL-2KOマウスとnCL-4KOマウスは共に通常飼育条件では正常だが、どちらのマウスも傷害因子の投与によって野生型に比べ有意に胃貼膜に潰瘍性出血を引き起こしやすいことを明らかにした。さらにKOマウスのサンプルを用いた生化学的解析により、nCL-2とnCL-4が複合体を形成することを明らかにした。すなわち、nCL-2とnCL-4は複合体として協同で胃粘膜防御に関わることを見出した(論文投稿準備中)。今後、複合体形成の意義やマウス表現型の分子機構を明らかにしていきたい。
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