研究概要 |
平成21年度は前年度から引き続き筑波大学農林技術センター井川演習林内で水文観測を行うと共にGIS(地理情報システム)を用いた地形の解析手法についての検討を行った。また,井川演習林内における過去の崩壊の発生状況について,空中写真判読と現地調査によって調べた。その結果,井川演習林内に存在する崩壊は深さにかなりのばらつきがみられることが明らかになった。 上記の調査と平行して,地下水の鉛直浸透に関する基礎方程式について検討することで,間隙水圧(土層中で発達し崩壊を引き起こす原因となる水圧)の発達に支配的な役割を果たす要因を特定し,間隙水圧の推定モデルを作成した。その結果,間隙水圧の大きさには地層の透水性そのものよりも地層境界における透水性の変化率が重要であることを明らかにし,特に地層境界における透水性の変化率が小さい場合は間隙水圧の値が静水圧よりもかなり低いことを示した。この間隙水圧の推定モデルを無限長斜面の安定解析式に適用し,様々な降雨波形を実際に与えることで,降雨波形と崩壊の発生特性の関係性について検討した。その結果,短期間の強雨がもたらされると浅い地層境界において崩壊が発生する可能性が高く,長期間の降雨がもたらされると深い地層境界で崩壊が発生する可能性が高い傾向がみられた。このことが,井川演習林内において様々な深さの崩壊が存在する原因のひとつとなった可能性がある。 本研究によって崩壊の発生に影響を及ぼす支配的な要因を特定することができ,また本研究で検討されたモデルにより,現地で発生する崩壊の発生特性を説明できる可能性が示された。そのため,本研究成果は広域の山地流域を対象とした崩壊発生予測の構築に大きく寄与すると考えられる。本研究で得られた研究成果の一部は,既に学会等で公表を行った。
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