研究概要 |
樹木と林床植生の細根生産および養分吸収の季節変化パターンの違いを明らかにするために、冷温帯林の優占樹種であるミズナラと代表的な林床植生であるクマザサを別々に栽培し、根箱法による細根生産の観測と硝酸還元酵素活性の測定を行った。細根生産の観測では、スキャナーを用いて根箱側面を2週間間隔で観測し、画像上で根長を測定した。測定間隔ごとの根の伸長量を根生産速度とした。また根フェノロジーと地上部フェノロジーの関係を明らかにするために、全当年葉の葉面積やクマザサの光合成速度を測定した。硝酸還元酵素活性の測定は、根生産の測定とは別に栽培したミズナラとクマザサを用いて8月,10月,2月,5月の4回行った。根生産速度はミズナラでは7月にピークがあったのに対して、クマザサでは7月と10月の二山型ピークとなり、異なる季節変化パターンを示した。ミズナラでは地温と根生産速度の間に非常に強い相関があったが、クマザサにおいては地温だけでは説明できなかった。一方、クマザサの葉フェノロジーはミズナラとは異なり、当年葉は夏後半に展開した。またクマザサの光合成速度は葉面積変化に同調して9月に最大になった。このことからクマザサでは夏後半の光合成で獲得した炭素を用いて10月に細根生産速度が高まったと考えられた。硝酸還元酵素活性もミズナラとクマザサでは異なる季節変化パターンを示し、この違いも葉や根の生産パターンの違いと関係しているものと考えられた。以上のことから、さまざまな種が混在する森林生態系においては、根の生産や機能の季節性は樹木と林床植生では異なり、根の機能を評価する際には樹木だけでなく林床植生をも考慮する必要があることが示唆された。
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