研究概要 |
森林内部で水分不飽和な斜面土壌のメタン吸収・放出能についての評価と、断続的に飽和する渓畔湿地のメタン放出源としての評価を滋賀県の桐生水文試験地を対象に行った。 水分不飽和な斜面土壌では、斜面上部や中部の比較的乾いた土壌においては、年間を通じてメタンの酸化(吸収)がみられ、メタンの吸収源として機能しており、その強度の年々変動は小さかった。一方で、斜面下部の湿潤な土壌においては、夏期の高温時にはメタン生成の増加により、メタンの放出源として機能し、特に梅雨や台風などの夏期降水量が大きい年で顕著に観測された。これらのことは夏に雨の多いようなアジアモンスーン域では、夏期の降雨によるメタン吸収の低下の影響を考慮して年間収支を算出することの必要性を示した(Itoh et al., 2009)。 渓畔湿地においては、堆積した有機物などの嫌気的分解が進み、夏期にメタンの放出が増大することが既に報告されている(Itoh et al., 2007)が、本課題では、メタンやその基質の二酸化炭素の炭素安定同位体比に着日して観測を続けた。その結果、夏期の降水量の多寡に伴う、地下水位や地下水中溶存酸素濃度の変動を受け、地下部でのメタン生成の基質が季節的に変動することが明らかになった。特に、夏期に高温かつ湿潤な環境が維持されるような年には、非常に還元的な環境が形成され、他の時期に比べて酢酸由来のメタンの生成が突発的に増加し、それが、大きなメタン放出量につながっていることが示された(Itoh et al., 2008)。現在さらに微生物群集の活動にも着目し、解析を進めている。
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