本研究では、スギ・ヒノキ人工林において強度間伐後に発生し、幹成長および材質の低下の原因となる後生枝発生メカニズムについて樹木生理学的研究を行う。近年、林野庁は30~50%という高い間伐率で実施される強度間伐によって林冠を疎開し、複層林や混交林へと導く施業を推奨している。後生枝の発生には先折れや枝打ち、光量の増加などの外的要因に加えて、樹齢や成長パターンなどの内的要因が関係していると考えられる。間伐によって林冠が疎開すると、樹木の成長パターンが変化し、間接的に後生枝発生の内的要因となっている可能性がある。しかし、現在実施されているような強度間伐によって、どの程度後生枝が発生し、それが立木の成長や材質にどのような影響を及ぼすのかは不明である。そこで、本研究では列状間伐や群状間伐など、様々な強度間伐施業が実施された林分において、後生枝の発生状況と成長量、生理特性を調査し、間伐後の後生枝発生メカニズムを明らかにすることを目的とする。後生枝の発生については、樹木個体内における肥大成長と枝成長の間の生理的トレードオフ関係に加えて、成長促進による材積増加と材質低下による損益の間に実務的なトレードオフ関係が想定される。 平成21年度は、15年前に本数間伐率50%の強度間伐を行った、比叡山延暦寺の90年生ヒノキ人工林において、樹冠内の枝の垂直分布の調査を行った。この林分では強度間伐によってヒノキの樹冠が長くなり、葉の分布範囲が広くなるとともに、ピーク枝・葉量が少なくなることを明らかにした。また、平成21年度に設置した兵庫県立森林・林業技術センターが強度間伐を行った兵庫県・峰山試験地のスギ林において、後生枝の発生状況を調査し、枝を採取した。これらの枝は年齢や乾燥重量、成長量を測定するために実験室に持ち帰った。
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