森林土壌には莫大な有機炭素が蓄積されており、その蓄積量は樹木に蓄積されている量の約4倍強である。土壌中の有機炭素は樹木リターを起源とし、微生物分解によってその化学構造を変えながら、「腐植」と呼ばれる高分子有機化合物の混合物として森林土壌に蓄積する。本研究では「腐植の大半を構成する難分解性土壌有機物の多くは、リグニンが分解されてできた変性リグニンである」という仮説に基づき、難分解性有機物であるリグニンの動態を追跡する。これにより、「リグニン」を指標とした腐植生成プロセスを明らかに出来ると考える。 落葉広葉樹林のリター分解・腐植生成プロセスの経時変化を定性・定量的に評価するために、固体^<13>C核磁気共鳴法により得られたブナ及びミズナラの落葉リター分解試験試料の有機物組成分析結果から各有機物成分の分解速度をOlson(1963)の指数分解式への近似により算出した。その結果、carbonyl、aromatic、O-alkyl、aliphatic態各炭素の分解係数は、ブナ落葉で0.09、0.37、0.51、0.29(year^<-1>)、ミズナラ落葉で0.23、0.40、0.41、0.29(year^<-1>)であった。落葉の形態の違いを反映し、ブナとミズナラの落葉成分の分解速度には違いが見られるが、各成分の分解性については同様の傾向を示した。また、これらの落葉中の有機物成分の分解速度を基に林床の有機物集積量を推定した結果、10年間で1ヘクタールあたり総計4トンの炭素が林床に蓄積され、定常状態となることを明らかにした。これは、現在定常状態にある小川学術参考林における落葉層量とほぼ一致し、本研究における計算結果の信頼性を確認できた。
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