研究課題
我が国には、各地に石灰岩が分布する地域が点在する。石灰岩地帯では、高濃度のカルシウムの影響で、リンがカルシウムと強固に結合している。また、高いpHの影響で鉄やマンガンなどの微量元素の吸収阻害がおこる環境である。しかし、一部の植物は石灰岩地帯の環境に適応し、分布している。しかし、我が国の石灰岩地帯に分布する植物の栄養生理学的な研究は現在まで行われていない。そこで、石灰岩地帯に生育する樹木の成長特性を、主に養分動態を中心に検討することを目的とした。調査地は、九州において広大な面積を誇る石灰岩地帯である福岡県北九州市の平尾台に分布しているヤブニッケイとシロダモを対象にした。そして、2樹種の樹冠中部の光合成速度を10月下旬に測定した。測定に使用した葉はサンプリングし、各種養分濃度を分析した。これらの樹木は、非石灰岩地帯(褐色森林土)に該当する、平尾台の西側に位置する中谷国有林内に生育している個体も併せて測定し、比較・検討した。光飽和時における最大光合成速度は、ヤブニッケイ、シロダモとも石灰岩地帯と褐色森林土の個体間に有意な差はなかった。しかし、光-光合成曲線を検討すると、石灰岩地帯のヤブニッケイは100μmol m^<-2>s^<-1>あたりの暗い光環境における光合成速度が低く、初期勾配の傾きが小さくなった。また、葉内の窒素、リン濃度はヤブニッケイ、シロダモとも石灰岩地帯と褐色森林土の個体間に有意な差はなく、これらの養分の吸収は抑制されていないと考えられた。しかし、石灰岩地帯のヤブニッケイはカリウムとクロロフィル濃度が有意に減少しており、高濃度のカルシウムの影響を受けていると考えられた。以上の結果から、シロダモの方がヤブニッケイよりも石灰岩地帯の養分環境に対する適応能力は高いと考えられる。
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Trees 23
ページ: 145-157
九州森林研究 62(印刷中, 掲載確定)