本研究では、国際自然保護連合(IUCN)によって区分されている、絶滅危惧IA類(Critically Endangered ; CR)、絶滅危惧種IB類(Endangered ; EN)、軽度懸念(Least Concern ; LC)の樹種と、広く分布する樹種の強光馴化特性を明らかにし、絶滅危惧種の適切な育苗方法や管理方法を開発することを目的とした。 調査はマレーシアプトラ大学(UPM)林学部構内の苗畑でおこなった。CRとしてShorea resinosa(Sr)、Shorea singkawang(Ss)、ENとしてShorea leprosula(Sl)、LCとしてShorea curtisii(Sc)、絶滅危惧種に指定されていない樹種としてShorea macroptera(Sm)と、絶滅危惧種指定に対して未確定となっているNeobalanocarpus heimii(Nh)を選んだ。1年生ポット苗を用いて、各樹種の葉のガス交換特性、葉厚、葉内窒素濃度、葉内クロロフィル量を調べた。 苗を強光下に移した結果、すべての樹種で光合成速度の低下が見られ、光阻害も受けていた。暗い光環境下で生育した苗は強光下に移した際に光阻害を受けた為に光合成速度が低下したと考えられた。苗を強光下に移して1ヶ月後Slは着葉していた葉を落とし、2ヶ月後には新しい葉を展葉した。新しく展葉した葉は旧葉よりも高い光合成速度を示した。一方残りの5種は光阻害を受け、葉の変色もみられたが着葉させたままであった。Nhでは強光下に移した際に低下した光合成の値が処理2ヶ月後には処理前の値まで回復した。SrやSsは処理1週間後に低下した光合成速度の値はその後増加したものの、処理前の値には戻らなかった。以上のことから、光環境が変わった際にSlのように新しい葉を展葉するタイプは、環境の変化に対し順応しやすい樹種と考えられる。一方、光阻害を受け光合成速度が落ちている状態のまま着葉しているSrやSsは環境の変化に馴化しにくい樹種と考えられる。このように、CRに指定されているSrやSsは環境変化に対して脆弱な樹種であると考えられ、これらの樹種を用いて植栽をおこなう際には長期間のハードニング処理をおこなうなどの対策が必要であると考えられる。
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