1.ESR実験 実験に必要となる、フェノール性および非フェノール性の単量体、二量体等のリグニンモデル化合物の有機合成をおこなった。また、合成と並行して、UV照射装置(LIGHTEST社製・CUREMATE200)とESR装置(日本電子製・FR30)とを組み合わせたUV-ESR装置のセットアップをおこなった。すなわち、リグニンモデル化合物と反応させる初発ラジカルが確実に発生しているか否か、すなわち装置が正確にセッティングされているかを確認する為、リグニンモデル化合物を添加していない系にラジカル発生剤のみを添加してUV照射をおこない、生成する初発ラジカルを検出する予備実験をおこなった。ラジカル発生剤としては、カーボンセンターラジカルおよびペルオキシルラジカル発生剤としてAIBN等のアゾ化合物を、アルコキシルラジカル発生剤としてジ-tert-ブチルペルオキシド等を用いた。これらはラジカル重合の開始剤として用いられることの多い物質であるが、本研究においては逆にリグニンモデルダイマーおよび将来的にはリグニンポリマーの分解を想定して用いた。 2.分子軌道計算 Wavefunction社製Spartan'06を用いて、リグニンモデル化合物(A-H)およびA-Hから水素原子が引き抜かれた生成物(A・)それぞれのポテンシャルエネルギーを計算し、両者の差を計算することでA-H結合の結合解離エネルギー(BDE)を求めた。まず分子構造を描画したのちにAM1によって立体構造の最適化をおこない、その後密度汎関数法(DFT)によってB3LYP/6-311G*レベルにおけるポテンシャルエネルギー計算をおこなった。その結果、様々なリグニンモデル化合物において最も引き抜かれやすい水素原子はベンジル位のものであることが明らかになった。
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