1. ESR実験 昨年度にセットアップ済みのUV-ESR装置を用いて、アゾ化合物由来カーボンセンターラジカルとリグニンモデル化合物(LMC)との反応で生成するラジカルを測定した。具体的には、アゾ化合物及びLMCを石英セル中に採取してESR装置にセットし、UV照射を行うことで初発ラジカルをin situで発生させ、これをLMCと反応させることで生成するLMCラジカルのESRスペクトルを直接測定した。その結果、ベラトリルアルコールをLMCとして用いた際にはACVAおよびAAPH由来カーボンセンターラジカルが、二量体型の非フェノール性LMCを用いた際にはAIBNおよびACVA由来カーボンセンターラジカルがそれぞれLMCと反応することが明らかになった。一方、AMVN由来ラジカルはどちらとも反応しなかった。AAPH由来ラジカルおよび二量体LMCとの反応は溶媒への溶解度の関係でおこなわなかった。 2. 分子軌道計算 Wavefunction社製Spartan'06を用いて、リグニンモデル化合物(A-H)がA・+H・となる際の結合解離エネルギーおよび種々のカーボンセンターラジカル(C・)が水素原子(H・)を引きぬいて安定化する(C-H)際のエネルギー変化を比較した。その結果、ベラトリルアルコールと二量体LMCでは、ベラトリルアルコールの方が水素を引き抜かれにくいことが明らかになった。また、水素原子を得ることによるカーボンセンターラジカルの安定化エネルギーに関しては、より安定化するものからAAPH、ACVA、AIBN、AMVN由来ラジカルの順となった。この値はラジカルによる水素原子の引き抜きの強さの指標となる。本計算の結果は、上記ESR実験における各LMCおよびカーボンセンターラジカルとの反応性と強い相関がみられた。
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