小規模養殖とは、開発途上国の農家か農業廃棄物を利用してため池や水田で行う低コスト・リサイクル型の動物性タンパク生産システムである。前年度の安定同位体を指標とした調査では、養殖魚は施肥により涌いた植物プランクトンを直接摂餌するだけでなく、それらの遺骸が水底に堆積して底生生物の生産を増大させ、魚の生産に貢献している可能性が示唆された。そこで、本年度は計23面の養殖池を対象とし低次生物生産過程に関する調査を行った。その結果、常に換水されていた養殖池では、ほとんど換水されてない池に比べ、クロロフィルa及びプランクトン群集の生産量が有意に低かった。全ての池において、プランクトン群集の総生産は呼吸よりも大きく、独立栄養的であった。セディメントトラップを用いた調査によると、プランクトン態として生産された有機物のかなりの割合が、水底に堆積していたことが確認された。また、透明度とクロロフィルaの間には有意な負の相関が認められ、透明度が植物プランクトン量の指標として有効である可能性が示唆された。底性生物については、量的に重要なユスリカ幼虫の食性について調べた。調査時の8月上旬に現地で優占していたユスリカは、終令幼虫が深紅色、全長が10mm前後であったこと、触覚や尾部の特徴からユスリカ科ユスリカ属の一種と考えられた。粘土質の底泥に、有機物を含んだ表泥、配合飼料、牛糞を加えて基質とし、卵傀から孵化させた幼虫を飼育したところ、牛糞を与えた場合にもっとも良い成長を示した。このことから、牛糞は植物プランクトンの肥料としてだけでなく、ユスリカ等の底生生物の生産力を向上させる効果もある可能性が示唆された。
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