閉鎖循環式飼育装置によるトラフグ飼育を行った際の飼育排水、装置内に沈殿した固形物および泡沫分離物を基にした培地を作製し、微細藻類培養が可能であるかを調査した。培地の作製はまず、飼育水1Lあたりの固形物、泡沫分離物の重量を算出した。次に算出した値とそれぞれの窒素およびリンをはじめとするミネラルの含量から養魚廃棄物培地を作製した際の元素組成を算出した。この値をナンノクロロプシス藻体や海産微細藻類の培養に広く用いられるF培地と窒素の含量を基準として比較した結果、養魚廃棄物培地に含まれるリンは培養に十分な量が含まれるが、必須元素である鉄およびマンガンが絶対的に不足することが分かった。ナンノクロロプシス藻体と比較した場合、必要元素量の鉄で5.5%、マンガンで12.9%となり、外部からの鉄およびマンガンの添加が必要であることが分かった。 これらの結果を踏まえて養魚廃棄物培地による藻類培養が可能か否か、また、不足元素の添加効果を明らかにするため、飼育排水と可溶化した固形物を主とした培地を作製し、ナンノクロロプシス、テトラセルミス、キートセロス3種の培養を行った。その結果、いずれの種も養魚廃棄物に不足栄養塩を添加することにより、十分な増殖が得られることが明らかとなった。本成果は海産魚の循環式養殖における廃棄物の処理、すなわち、飼育水の再生、飼育装置からは排出される固形物の再利用および餌料生物の生産を同時に行うことが可能であることを示し、環境に物質を一切排出しない物質循環型の海産魚養殖を実現に向けて端緒を開くことができた。
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