研究概要 |
2009年度までに実施した野外調査を継続し,複数年の環境・生物データを解析に用いた.広島湾に注ぐ2河川(天然河川:天満川,人工河川:太田川放水路)に6ヶ所の調査定点を設け,環境項目の測定と生物採集を実施した.各栄養段階の生物(魚類,餌料生物)および餌料生物の餌起源と考えられている溶存・懸濁態有機物等を季節ごとにサンプリングした.小型地曳き網(高さ2m,幅40m)を用いて10m四方のエリアに生息する魚類の定量的採集を実施した.餌料生物(カイアシ類,ミジンコ類,アミ類など)については濾水計を取り付けたプランクトンネット(口径45cm,目合い0.1m)およびソリ付きネット(開口部60×40cm,目合い0.1mm)を用いて定量的に採集した.水中の有機物の分析には,バンドン採水器を用いた層別採水サンプルを用いた.すべての採集物は冷蔵または冷凍状態で実験室に持ち帰り,安定同位体比および胃内容分析の試料とした.モデル魚種として,低塩分汽水域から海水域に広く生息するスズキ,ボラ,ハゼ類などを主要な解析対象とした.環境項目のうち,塩分は人工河川と天然河川の違いを特徴づけた.つまり,人工河川において海水の遡上がより上流側まで及んでおり,低塩分汽水域が広がる区間が天然河川に比べて短いことが明らかとなった.各魚種の分布密度,湿重量,魚種数は,季節的に大きく変動するとともに,天然河川と人工河川の間で異なった.胃内容物調査と安定同位体比分析の結果から,汽水域が広い天然河川において,先述の魚種の生産がより効率的に行われていることが示唆された.
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