研究概要 |
シオミズツボワムシBrachionus plicatilisは,海産仔稚魚の初期餌料生物として不可欠である.一方,本種の大量培養では増殖不良や大量斃死の問題が残されている.シオミズツボワムシの増殖様式は,周期的に単性生殖世代と両性生殖世代が出現する複雑なものである.単性生殖世代は,母虫が単性生殖によって遺伝的に同一な娘虫を産む.一方,世代間で遺伝的な変異は起こらないのにも関わらず,母虫と娘虫の飢餓耐性やその他の生活史特性が異なることが分かってきた.そこで,本課題では単性生殖世代を対象として,世代間で表現型が変化する機構を分子レベルで明らかにすることを目的とした.本年度に得られた成果は以下の通りである.本年度は,親世代が経験する水温の影響を検討した.その結果,まずシオミズツボワムシは広い水温で繁殖しうる能力を有し,寿命や繁殖といった生活史特性値が変異しつつも,生涯産仔数には差がみられないことが分かった.,一方,親世代が経験した水温は,次世代の生活史特性に影響しうることも分かった.特に,高い水温でシオミズツボワムシを培養した場合,次世代は低い水温の条件下で繁殖が抑制される傾向が認められた.この場合でも生涯産仔数は一定に保たれるものの,高い水温条件下における高い繁殖率(1日あたりの産仔数)は,ワムシの生理状態になんらかの負の影響を及ぼす可能性が示唆された.シオミズツボワムシの生息域において,水温は季節的および日周的に変化しうる.こうした水温の変化が,世代間で表現型や生活史特性を変異させる原因になり得るものと考えられた.
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