研究概要 |
本年は、2008年に相模湾を直撃ならびに接近した台風13号(SINLAKU)について、台風接近時からの海洋環境と生物群集の動態を調査した。研究計画通りに試料採集を行うことができた。また同時に、過去に相模湾を直撃した2005年11号(MAWAR)の試料の分析ならびに解析を行った。今回は、分析ならびに解析が終了した2005年11号(MAWAR)の結果について報告する。 クロロフィルa量は、台風通過直後は低い値を示していたが、3-5日後に、同時期の通常値に比べ約3.9倍の、最大値8mgm^<-3>を示した。また、一次生産量は、台風通過3-4日後に、最大値の350mgCm^<-3>day^<-1>をとり、通常値の約4,4倍に増加した。 また、台風通過直後から、一次生産量が増加し再び通常値に戻るまでの期間(8月27日-9月4日;8日間)を、台風によって引き起こされた一次生産増大期とし、この時期の生産量を積算した結果、0.2×10^4mgCm^<-3>typhoon period^<-1>を示した。この一次生産の増大量は、年間一次生産量の約5.2-8.6%の寄与があると推定された。植物プランクトン群集構造は、MDSプロットによる解析の結果、A(8月23-25日 ; 台風通過前、8月30日-9月1日 ; 最大細胞密度時)、B(8月26,27日 ; 台風通過直後)、C(8月28日 ; 低細胞密度1)、D(8月29日 ; 低細胞密度2)、E(9月2-8日 ; 細胞密度第2ピーク時)に分類された。台風通過に伴う植物プランクトン群集構造は、A→B→C→D→A→Eと変遷していったと考えられた。台風通過により、植物プランクトンの群集構造は、一時的に激変したが、約5日後には台風通過前の群集構造に戻った。本研究によってはじめて、台風による一次生産量の増加が年間一次生産量に対してどの程度寄与があるか、また、植物プランクトン群集構造の回復過程を明らかにすることができた。今後、2008年に観測した台風13号(SINLAKU)、2009年に到来する台風に関して試料採集ならびに分析を行っていく。本年度は、研究成果を国内外の学会、学術論文に活発に公表していく予定である。
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