研究概要 |
珪藻ウイルスの現場動態をMPN法(限界希釈法)により広島湾で測定した結果,ウイルス出現量に季節的変動が認められた.しかしながら,とくにキートセロス属の種判別は困難であったため,宿主動態との関係にはさらなる検討が必要と思われた.この問題を解決するため,様々な珪藻種を分離培養し,各種遺伝子を標的とした塩基配列解析を行い,客観的な分子定量技術を開発するための基盤整備を行った. 沿岸域ブルーム原因珪藻キートセロス・テヌイッシマス14株と同種感染性ウイルス9株との間で交差試験を行った.その結果,9株のウイルスの内2株が明らかに他ウイルス株と異なる宿主株感染特異性を示した.このことは本種個体群とウイルス個体群との間に複雑な感染-被感染性の関係を示すものと思われた.また感染特異性の異なる2株のウイルスは,いずれもDNAウイルスであることが明らかになった.その内1株を珪藻ウイルスCtenDNAV(粒径37±2nm)と命名しさらなる解析を行った結果,本ウイルスは38.5kDaの主要タンパク質を持つ環状1本鎖DNAウイルスであることが明らかになった.共通の珪藻宿主を持つゲノムタイプの異なるウイルス(RNA,DNA)の分離に成功したのは,本研究が初めてである. これまでに性状が明らかにされている珪藻感染性1本鎖RNAウイルス3種(CtenRNAV,RsRNAV,CsfrRNAV)のRNA依存性RNAポリメラーゼドメインを対象としたNJ法による系統学的解析を行った結果,それらは明らかな単系統を形成し,また塩基配列を用いたBLASTによる相同性解析でも,それらがお互いにきわめて近しい関係にあることが示された.以上の結果により,海洋環境中に進化的に近しい珪藻感染性ssRNAウイルスグループが存在するものと推定された.
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