魚類の主要な脂肪蓄積部位は魚種ごとに異なっており、トラフグのように主に肝臓に脂肪を蓄積する種と、マダイのように肝臓と筋肉の両方に脂肪を蓄積する種に大別される。本研究では、トラフグおよびマダイを主対象とし、魚種特異的な脂肪蓄積機構の一端を明らかにすることを目的とする。 本年度は、まずトラフグおよびマダイの各組織につき、脂質蓄積およびペルオキシソーム受容体増殖因子(PPAR)γ、リポタンパク質リパーゼ(LPL)1、2などの脂質代謝関連遺伝子の組織分布を調べた。その結果、脂質および各遺伝子の転写産物はトラフグでは主に肝臓に、マダイでは肝臓および筋肉の両方に存在することが明らかとなった。トラフグを10日間絶食させたところ、PPARγ、LPL1およびLPL2のmRNA蓄積量は肝臓で約0.5倍に低下し、筋肉および皮膚では5-10倍に増大した。以上の結果から、トラフグでは絶食時に肝臓での脂肪蓄積が抑制されるとともに、筋肉と皮膚で脂肪の取込みが促進され、絶食に伴う筋肉エネルギーの不足に対処していると考えられた。 一般に、上記のような脂質の輸送は成長ホルモン(GH)に制御されている。また、GHの機能の多くはGH依存的に各組織で発現誘導されるインスリン様成長因子(IGF)に仲介される。そこで、トラフグからGH、IGF-1およびIGF-IIをコードするcDNAをクローニングした。種々の条件下でこれら遺伝子のmRNA蓄積量を定量的リアルタイムPCRにより調べたところ、高塩分で飼育した際にGHのmRNA蓄積量が増大すること、さらにGH、IGF-IのmRNA蓄積量は体長の大きい個体で高いことなどが明らかとなった。今後は、これらのホルモンがトラフグおよびマダイ筋肉の脂質含量、脂質代謝関連遺伝子の発現量などに及ぼす影響を比較する予定である。
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