研究概要 |
前年度の研究成果に基づき、中小企業金融論に依拠しながら、政策金融のあるべき方向性、系統・民間金融のあるべき方向性の理論的整理や、経営発展過程における農業経営に対する審査・債権管理モデルを構築した。具体的には企業的農業経営の農業経営発展過程におけるABLの役割及び, ABLにおける農業固有の問題を理論的に整理し, 実際にABLを適用している企業的肉用牛肥育経営の事例分析を行い, その分析を通して, 農業金融における動産担保を活用した融資手法の意義と課題を明らかにした. 本研究で得られた結論は, 以下の三点に要約される. 第一はABLの意義に関してである. ABLの活用は, 貸し手と借り手との間のリレーションシップバンキングを強化する. それによって金融機関にとっては, 農業金融市場への一層の参入促進, 他方借り手にとっては資金枠の拡大・金利低減・資金の安定確保の実現し, 経営発展に不可欠な信用力の蓄積・留保利益の向上が可能となる. 先行研究のレビューをふまえると, ABLとリレーションシップバンキングは補完関係にあると言える. 第二はABLの課題に関してである. 制度的課題として, 第三者対抗要件に関し, 譲渡人は法人のみに限定されており非法人経営の場合には, 第三者対抗要件を具備していないこと, 家畜の評価方法ならびに処分市場の未整備を指摘した. 他方, 貸し手の課題として, ABLに必要な機能内部化の限界, 借り手の課題として, 金融機関が要求する経営情報の管理と提供能力の向上を指摘した. 第三は, ABLを利用する借り手の特性に関してである. 必ずしもABLの利用を希望する経営の全てがABL利用に適しているわけではないこと, ただし小規模経営でも組織を作るなど工夫次第では, ABLを利用することが可能であることを指摘した.
|