研究概要 |
本研究では、大気圧下で100℃以上に加熱した過熱水を用いた食品の殺菌について検討を行った。当初は、既往の研究により開発された、高圧で沸騰させた水をノズルから噴霧することにより発生させることが可能な微細水滴を含む過熱水蒸気(アクアガスと呼ぶ)の水滴が100℃以上の過熱状態にあると仮定しその温度測定を試みた。微細水滴は直径が20~40μmであるため熱電対等で温度測定をする場合、微細水滴を保温するための周囲の過熱水蒸気の温度と微細水滴の温度を判別することが困難であった。また放射温度計を使用する場合、微細水滴の背景の温度と微細水滴の温度の平均的な温度を測定してしまうと言う問題があった。本研究では温度制御可能な黒体板を背景として、微細水滴温度を放射温度計で測定する手法を開発した。測定の結果アクアガス中の水滴が過熱状態にあることを示す明確なデータは得られなかった。 次に高圧下で加熱した水のみをノズルから食材に噴射し、食材表面温度と食材表面に付着させた耐熱性菌(B. subtilis, JCM2499)芽胞への影響について検討した。ノズルから熱水のみを噴射した場合、ノズル内における水温が約150℃までは過熱状態を維持して噴射させることが可能であったが、水温が150℃より高温になると噴射直後に突沸が起こり過熱状態を維持できなかった。ノズル内水温が140℃でノズル出口から食材表面までの距離が30mmの場合、食材表面温度は約115℃まで上昇させることが可能であった。また食材表面に芽胞を付着させポリエチレンフィルムで食材を包んだ状態で加熱殺菌試験を行った結果、過熱水を噴霧した場合、100℃の熱水中で加熱した場合より高い殺菌効果を示した。本技術により将来的には高圧容器を使用せずに食材表面の耐熱性菌を殺菌し、高品質で長期保蔵可能な食品の製造が可能になると期待される。
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