研究概要 |
日本の農業従事者の高翁化が深刻化する中, 生産管理の省力化を可能にする水耕栽培の重要性が高まっている. しかし水耕栽培には水を循環させるため病害が蔓延しやすいという欠点がある.そのため, 菌の増殖を早期に検知できる菌濃度センサーが必要とされている. 菌濃度センサーへの要求機能は, 低濃度の菌を測定可能, 菌とそれ以外の微粒子を識別可能, 分単位の短時間計測可能の3つである. 従来の微生物濃度測定法としてはPCR法や培養法などが用いられているが, これらの方法では計測時間が数日に及ぶ. そこで本研究の目的は, 水耕栽培環境において分単位の短時間計測可能な菌濃度センサーをMEMS技術を用いて開発することとした。予備的検討で, 底面に矩形の対向電極を配置した流路内に菌と酵母を流し, 誘電泳動による分離制御を行ったが, その一部が電極に捕捉される現象が観察された. 本年度は, 誘電泳動による微粒子識別に主眼を置き, 従来の矩形電極の問題点を解決する新しい電極形状を提案し, 実験によりその有効性を示した. 電極設計に際し, 有限要素法解析ソフトを用いて, 流路内に発生する電界を計算した. 平行に配置した矩形電極に電圧を印加した場合, 流れに対して垂直な方向 (y方向) でみると, 両電極のエッジに電界が集中し, 電極に微粒子が捕捉される. そこで新しい電極形状として, 台形電極を流れ方向 (x方向) にアレイ状に配置する設計を提案した. 台形電極 (底辺120μin, 上辺30μm, 高さ300μm) 間に15Vの電圧をかけた場合について電界計算した結果, 微粒子は流路内の任意の場所に捕捉されることなく, 電界の勾配方向であるy方向の誘電泳動力を受け続けることがわかった. 台形電極の性能を評価するため, マイクロ流路を流れる高分子ビーズを誘電泳動で操作する実験を行った. フォトリソグラフィにより作製した台形電極に幅300μm, 深さ50μm, 長さ20mmの流路を接着した. 実験条件は, 流量2μL/min, 周波数2kHz, 電圧15Vとした. 実験の結果, 誘電泳動によってビーズが強電界領域から反発され, 流路出口付近でy軸の一方向に寄って流れている様子が観察された. 以上により, 誘電泳動を用いた微粒子分離に有効な新しい電極形状に関する知見が得られた.
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