研究概要 |
申請者は前年度までにポジトロンイメージング装置と11-C標識二酸化炭素を用いて、植物体の葉から茎内部を移行する11-C標識光合成産物をイメージングしてきた。つまり、植物体内のソース器官からシンク器官へ移行する炭素動態を定量的に解析する方法を確立したと言える。 しかしながらポジトロンイメージング装置の撮像視野は2次元平面であるため、3次元的な構造を持つ果実内の炭素動態の撮像には不向きである。そこで、医療分野においてトレーサの3次元撮像に実績のあるポジトロン断層法(PET)装置を用いて、植物体内の炭素動態の撮像を試みた。実験には大小二つの果実が付いたトマト(Lycopersicon esculentum L. cv. Momotarou)を用い、撮像装置にはmicroPET Focus 120 scanner (Simens Medical Solutions, Inc.)を使用した。新たに開発したポンプと二酸化炭素吸収セルからなる簡易ガスコントロールシステムを用いて、十分な光量を与えた果実直下葉に、約100MBqの11-C標識二酸化炭素を吸収させ、果実の撮像を2時間行った。取得したデータの画像再構成は3D-OSEM方式で、また動態解析には2D-FBP方式によるものを用いた。11-C標識二酸化炭素の投与後、約30分頃から果実に11-C標識光合成産物が到達し始め、約1.5~2時間後には果実内部への移行様式が可視化されるなど、PETによる果実内炭素動態の撮像に初めて成功した。大小二つの果実に流入する炭素動態を解析したところ、ほぼ同量の11-C標識光合成産物が同時に移行している。これはし果実(小)には果実(大)に対して新鮮重あたり86倍の11-C標識光合成産物が移行しでいることを示しており、トマト果実の成長期におけるシンク能の高さがわかる。 ポジトロンイメージング装置と同様に、PETを用いた植物研究、特に3次元的な構造を持った対象における植物分子イメージング実験手法の有用性が示された。
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