潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患は、大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍の症状を呈する病気であり、その患者数は毎年増加の一途をたどっている。これらの発症原因には、自己免疫反応の異常説、細菌やウイルスなどの感染説が考えられているが、いまだ十分に明らかにされておらず、国の難病に指定されている。炎症反応は活性酸素などによる酸化ストレスによって促進されることから、抗酸化物質の中に抗炎症作用を有するものがいくつか知られている。鶏卵卵黄タンパク質ボスビチンの酵素分解物であるホスビチンホスホペプチド(PPP : phosvitin phosphopeptides)は、抗酸化作用を有することが知られており、また、難消化性であるため、腸まで活性を保持したまま届くことが明らかになっている。本研究では、ヒト結腸がん由来Caco-2細胞の腸管炎症モデルを用い、PPPが炎症性サイトカインのmRNAおよびタンパク質発現量に及ぼす影響について調べ、PPPの抗炎症作用について検討した。その結果、RT-PCR法の結果から、PPPは濃度依存的に炎症性サイトカインであるIL-8およびTNF-αの発現を遺伝子レベルで抑制し、また、ELISA法の結果から、IL-8の発現をタンパク質レベルで抑制することが明らかとなった。これらの結果から、PPPはIL-8などの炎症性サイトカインの発現を遺伝子およびタンパク質レベルで抑制することで、抗炎症作用を発揮する可能性が示唆された。今後、in vivoでのPPPの抗炎症作用について検討し、さらにそのメカニズムの解明等を通じて、炎症反応を緩和するPPPの有用性および新たな機能性を確認していくことが研究課題として考えられる。
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