H21年度につづき、放牧飼養(放牧草摂食区)及び舎飼い飼養(グラスサイレージ摂食区)による2週間で反転する切り換え試験より得られた牛乳サンプルを分析に用い、解析した。研究結果から、乳中総シアル酸は放牧飼養により増加する可能性が再び示唆され、放牧11日目以降有意な増加がみられた。さらにこれまで乳中シアル酸濃度の解析に使用してきたレゾルシノール法がメイラード反応により濃度を課題評価する可能性が考えられたため、緩和的加水分解法によるシアル酸の脱離及びDMBを用いた蛍光標識法及び高速液体クロマトグラフィーにより分子種毎(N-アセチルノイラミン酸及びN-グリコリルノイラミン酸)の定量法を検討し、濃度測定に用いた。その結果、主要な乳中シアル酸であるNアセチルノイラミン酸(NA)は、舎飼いから放牧による有意な増加は認められず、総シアル酸の測定結果を反映するものにはならなかった。一方で、放牧から舎飼いに切り換えると有意な減少がみられ、総シアル酸濃度の変化と一致した。NA測定には検討の余地を残しており、今後、さらなる高精度の乳中シアル酸抽出・分析方法の検討が必要になる。また、乳中複合糖質の類似構造を有する酸性ミルクオリゴ糖(3'-シアリルラクトース及び6'-シアリルラクトース)はいずれも腸管細胞株HT-29において、高いToll-likeレセプター遺伝子の発現量を増加させることが明らかになった。このことから、様々な保健機能への効果が期待される。放牧乳製品における検討では、カマンベールチーズのシアル酸濃度を測定した。舍飼い、放牧両区間に有意な差は見られなかったが、熟成日数により両区とも有意な減少が見られた。このことから牛乳中のシアル酸はチーズの熟成期間において何らかの役割を有していることが考えられた。今後、より早い熟成期間(例えば10日や20日)でのシアル酸濃度の検討を行う必要がある。
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