低栄養による性腺機能抑制が大きな問題となっている。本研究の最終目標は長鎖脂肪酸をシグナル分子とした性腺機能制御メカニズムが下垂体の性腺刺激ホルモン産生細胞(ゴナドトロフ)に存在することを証明することにある。前年度までの研究で、長鎖脂肪酸がゴナドトロフの長鎖脂肪酸受容体G-protein coupled receptor 120 (GPR120)、黄体形成ホルモン(LH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRH-R)mRNA発現および性腺刺激ホルモン分泌に与える影響を検討した。本年度は、ゴナドトロフに局在するGPR120の発現制御因子を明らかとする目的で2つの実験を行った。 成熟マウスの下垂体へ留置したカテーテルを用いて無拘束無麻酔下でパルミチン酸を微量投与した結果、投与120分後に下垂体のGPR120mRNA発現量が増加した。しかし、同量のパルミチン酸を頸静脈へ投与した動物ではGPR120mRNA発現量の増加は観察できなかった。この結果から、パルミチン酸は下垂体へ直接作用することでGPR120 mRNA発現量を増加させることが明らかとなった。また、去勢後、性ステロイドホルモンを代償投与した雌雄の成熟マウスを用いて、GPR120 mRNA発現量の変化を観察した結果、去勢による下垂体でのGPR120 mRNA発現量の増加が性ステロイドホルモン濃度依存的に抑制された。この抑制はポジティブフィードバックが誘起される高濃度のエストロジェンを投与した群でも観察されたことから、GnRHを介さず性ステロイドホルモンが直接ないし間接的にGPR120 mRNA発現量を抑制することが明らかとなった。
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