腎臓で主に産生されるエリスロポイエチン(EPO)は低酸素応答性の造血サイトカインである。体内酸素分圧低下に反応して中枢神経系でも異所性に発現しており、神経細胞の保護作用への関与が考えられている。これまでガス環境自動制御チャンバーを用いた低酸素(O_2 10%)持続刺激により、EPO-mRNAおよびEPO受容体mRNAがWistar系ラット中枢神経部位において広範囲に発現することを確認してきた。EPO-mRNA発現量をReal time RT-PCR法を用いて定量的に測定したところ、中枢神経系では低酸素刺激により持続的にEPO-mRNAの発現量が増加するが、腎臓とは異なる時間変化を示した。また、中枢神経系部位間でも低酸素応答性増加の時間変化に違いが見られ、局所的なEPO産生制御機構が存在すると考えられる。体内水分量調節に関与する神経性下垂体では低酸素時のEPO-mRNA発現時間変化が視床下部と異なっているため、低酸素刺激に加えて体内水分量がEPO発現に与える影響についても検討を行った。摂水量調節後に採取したラット神経性下垂体においてEPO-mRNA発現量の比較を行ったところ、摂水制限群では減少し、水分過負荷群ではやや増加する傾向が見られたが、定量的な解析では有意差は認められなかった。摂水量変動はEPO遺伝子発現に対して強い誘導作用は持たず、緩やかな影響にとどまると考えられる。
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