本年度は、実験動物を用いて、胃食道逆流症と食道機能に関連する基礎的知見を得ることを目標とした。まず、新たな食道疾患モデル動物として、スンクスの有用性を検討した。さらに、胃内容物成分の急性暴露モデルとして、摘出食道標本への酸暴露を試みた。 1. 新たな食道疾患モデル動物の開発 現在汎用されているラットやマウスなどの実験動物は、ヒトと異なり、嘔吐しないという特徴がある。一方、嘔吐現象と胃内容物の逆流には関係があることは容易に予想できる。そこで、嘔吐する実験動物として知られるスンクスSuncus murinusを新たな食道疾患モデル動物として応用可能かどうかを調べた。 スンクスの食道は、ラットやマウスと同じく横紋筋で構成されていること、食道筋は迷走神経の支配を受けていること、さらに、主な神経伝達物質としてアセチルコリンを用いていることを形態学的に明らかにした。また、スンクスの食道運動のin vitro(ex vivo)実験系を確立した。これらの結果は、スンクス食道にはラットやマウスと類似の特徴があり、今後、ラットやマウスと同様の実験が可能であることを示唆している。 2. 食道への酸暴露の食道運動機能に対する影響 ラットおよびマウスから食道を摘出し、食道を支配する迷走神経を電気刺激して食道標本の収縮運動を惹起させた。胃内容物の逆流を想定して、食道へ酸性緩衝液を投与したところ、まず、食道運動の抑制反応が引き起こされた。さらに、強酸性条件下では、食道筋の収縮反応が誘発された。この結果は、酸は食道運動の異常化を誘導することを示唆しており、胃食道逆流症の症例で見られる食道運動不全の一因であることが考えられる。
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