研究概要 |
犬の門脈圧亢進症(PH)の臨床的考察を行う目的で、過去10年間に来院した肝疾患の犬のカルテでPHを併発する可能性のある肝疾患について調査した。その結果、慢性肝疾患と原発性門脈低形成(PHPV)が最も多く該当した。慢性肝疾患は以前から犬やヒトでPHを呈することが知られていたが、PHPVの犬でPHについて詳細に調査した報告はなかった。そこで、PHを伴うPHPVの犬13例を調査したところ、犬で比較的認められる疾患である先天性門脈シャント(CPSS)と臨床的に類似する点が多いことが明らかとなった。またPHでしばしば出現する後天性門脈体循環側副路(APSCs)が存在しなかった2例でも門脈圧の上昇が認められたことから、以前からPHの指標とされてきたAPSCsのみでPHは評価できないと推察された。 さらに、犬の門脈圧亢進の状況をさらに詳細に把握するため, 腹腔鏡で肝生検を実施する際に門脈圧(脾髄内圧 : SPP)を同時に評価した。APSCsを伴う26例を対像とし、健常犬(6頭)とCPSS症例(20例)の脾髄内圧と比較検討した。その結果、APSCsを伴った症例のSPPは9.9±3.3mmHgであり健常犬とCPSS症例のSPPと比較して有意に上昇が認められた。この結果により、SPPの測定はPHを評価するのに有効であることが示された。現在、さらに低侵襲な門脈圧の評価方法として、画像診断(CT、超音波)による門脈(PV)/動脈(Ao)比の基礎検討を行っている。健常犬8頭のPV/Ao比は1.05±0。62であるのに対し慢性肝疾患では1.47±1.51と上昇する傾向が認められている。この結果は、侵襲性のない画像診断で門脈圧の評価を行うことができる可能性を秘めており、今後さらに症例数を増やし解析していく価値のあるデータと思われる。
|