本研究期間に犬の門脈圧亢進症(PH)の臨床的考察の結果、肝性PHの発生が最も多いことが明らかとなり、その基礎疾患は慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変:CH)と原発性門脈低形成(PHPV)が主体であった。また、肝前性PHを引き起こす門脈血栓症や肝後性PHを引き起こすBudd-Chiari-like syndromeの症例に対して、今まで報告のないCTなどを検査に用いることで犬における肝前性、肝後性PHの病態も把握することができた。前年度の研究において門脈/大動脈(PV/Ao)比が門脈圧と関与していることがCTで明らかとなったため、さらに、低侵襲な超音波で各種肝疾患のPV/Ao比について評価した。なお、その評価法は今まで犬で実施されてこなかった右肋間アプローチによるものであり、容易にPVとAoの直径を測定することができ臨床的に有用な手法であった。その結果、先天性門脈シャント(CPSS)やPHPVではCTと同様に健常犬と比較して有意にPV/Ao比が縮小していたが、CH群では健常犬と同程度のPV/Ao比であった。そのため、CHでは重症度や進行度によってPHの程度が異なることが想定されるため、さらなる検討が必要と思われた。加えて、低侵襲なPHの評価法である肝静脈圧測定の基礎的検討の結果、ヒトと同様にカテーテルにてPRを分類することも可能であることが明らかとなったため、これらを組み合わせてPHを評価することでさらなる病態解明に繋がるものと考えられた。ヒトではエンドセリン-1(ET-1)がPHの症例で関与していることが明らかとなっている。そこで、犬のPH症例でET-1を測定したとことCH群およびPEPV群ともに上昇していることが明らかとなり、ET-1は犬のPHの病態と密接に関与している可能性が示唆された。
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