本研究では、細胞膜修復仮説をもとに鍵分子であるSYT1について、相互作用因子とそれらの凍結耐性における機能を解析する。哺乳類のシナプトタグミンに関する知見から膜融合装置SNAREタンパク質との相互作用が予測されるが、植物では実証例はなく、凍結耐性への関与も不明である。今回の研究期間内では、(1) 相互作用因子をシロイヌナズナのゲノム情報と生化学的な手法を組み合わせて探索することで、動物細胞との類似点と相違点を明らかにする。さらに、(2) 同定した相互作用因子の凍結耐性のカルシウム依存性への寄与を遺伝学的な方法で解析する予定である。本年度の成果であるが、まず、ゲノム情報をもとにSYT1と相同性のある遺伝子の解析を行った。SYT1にはこれまで5つのホモログがあることがわかっていたが、その内1つは偽遺伝子であることがcDNA配列の比較から明らかとなった。また、植物界におけるSYT1の普遍性を明らかにするためにゲノム配列の決定されたイネやポプラ等の植物においてSYT1と相同な遺伝子の探索を行い、分子系統解析を行ったところ、植物のシナプトタグミンには大きく3つのクレードがあることが明らかとなった。各々のクレード内では極めて高度にアミノ酸配列が保存されていることから、機能的な保存性が示唆される。生化学的な解析では、相互作用因子の同定までには至らなかったが、葉肉細胞では、SYT1は細胞膜のみに局在し、細胞内における位相について2つのカルシウム結合ドメインが細胞質に配向することがわかった。これを手がかりに細胞膜上で相互作用するタンパク質が同定できると予想される。
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