環境ホルモンは極微量でも生体の内分泌系を撹乱する化学物質である。特にヒトの生殖器癌の増加、神経系への影響、精子数の減少との因果関係が指摘されている。本研究では、身近に存在する環境ホルモンであるノニルフェノールを取り上げる。前立腺はノニルフェノールの標的となる可能性が高いことがヒトやマウスの培養細胞株等を用いた実験により示唆されている。これまでに環境ホルモン受容体として、エストロゲン受容体が研究されているが、ノニルフェノールとの結合が非常に弱く、ノニルフェノールの標的細胞中にはこれ以外の受容体が存在する可能性が高い。 そこで本研究では、様々なホルモン受容体タンパク質とホルモン存在下で結合することが既に知られているヒト転写共役因子AIBIタンパク質を酵母(S.Cerevisiae)で発現させ、ノニルフェノール存在下でこれに結合するタンパク質をtwo-hybrid法で探索した。その結果、新規タンパク質NPR1(Nonylphenol receptor 1)を単離した。NPR1はヒト前立腺の正常細胞及び癌細胞株LNCapで発現していた。NPR1に蛍光タンパク質mCherryを遺伝子工学的に融合させ、これをLNCap細胞株に導入したところ、これは主に小胞体に局在した。これにノニルフェノールを添加したところ、mCherry-NPR1の一部が核に移行し、ドット状に分布した。このことから、NPRIはノニルフェノールに応答して、AIBIと同じ核内に移行し機能するものと考えられた。 今後はNPR1に対する他の環境ホルモンの結合性を評価し、ノニルフェノールとの結合の特異性を記述すると共に、NPR1の発癌及び精子形成における機能を解明したい。また現在上記成果をもとに、NPR1、AIB1の両遺伝子を酵母に導入し、酵母two-hybrid法によるノニルフェノール検出システムの作出も開始している。
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