本研究は、家畜糞の堆肥化処理において温室効果ガスである亜酸化窒素(N_2O)の発生機序に及ぼす畜種の影響と、豚糞堆肥化で確認された硝酸菌(亜硝酸酸化細菌)接種によるN_2O抑制法の他畜種糞堆肥化への適応可能性について検討することを目的にしている。本年度は、カロリーの少ない牛糞の堆肥化(高温)発酵を実験管理下で再現するために、100L容発酵リアクター(大容積により保温性が向上)を収納できる揮散物質測定チャンバーを作成し、牛糞堆肥化試験で装置の性能評価と、N_2O発生における豚糞堆肥化との違いについて検証した。生牛糞を水分調整した後リアクターに充填し、チャンバーからの排気中ガス濃度を連続測定した。発酵温度は開始2日間で70℃付近まで上昇し、低カロリーの牛糞でも良好な高温発酵を再現できた。発酵温度はその後低下していき、14日目以降は原料の切返しを行っても温度は上昇しなくなった。N_2Oの発生は、堆積直後と第1回目(7日目)の切返し後に高いピークを形成したがその後減少していき、14日目(第2回切返し)以降は発生が終息した。硝化細菌の推移では、初発時原料中にアンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌が共に高い菌類レベル(10^6個/g堆肥)で存在していたが、7日目には亜硝酸酸化細菌のみ検出限界(10^2個/g堆肥)以下まで減少した。しかし、14日目には亜硝酸酸化細菌数が105個まで速やかに再増殖しており、豚糞堆肥化で観察される亜硝酸酸化細菌の極端な増殖遅延とそれによる亜硝酸態窒素の蓄積、および堆肥化後半での顕著なN_2O発生はこの牛糞堆肥化試験では観察されなかった。このことは、亜硝酸酸化細菌接種によるN_2O抑制法は牛糞堆肥化ではその効果が現れにくいことを示唆している。ただし尿の混入などによって原料中の窒素含量が多くなる場合は、豚糞と同様に、牛糞堆肥化においても硝化阻害が起こる可能性がある。
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