研究概要 |
遷移金属を用いた触媒的「炭素-水素結合(C-H)官能基化」は,アトムエコノミーや新規合成手法の確立といった観点から非常に魅力的であり,現在活発な検討が行われている分野のひとつである.申請者はこれまで,パラジウム触媒によるC-H官能基化として,特に分子内炭素-窒素および炭素-硫黄結合形成反応を利用した複素環化合物の新規構築法の開発に関して検討を行ってきた.その結果,インダゾールやベンゾチオフェンなどいくつかの含窒素・含硫黄複素環化合物が効率的に合成可能であることを明らかにした.今回申請者は,本プロセスのさらなる可能性を探るべく,以下の研究を行った. 1.さらに幅広い複素環合成への展開を期待して,3,3-diarylacrylamide類の閉環反応による4-aryl-2-quinolinone類合成を試みた.最適条件の探索の結果,様々な置換基を有する基質の閉環反応が円滑に進行する条件を見出した.特に再酸化剤の選択が重要であった. 2.これまでに申請者が確立した,上記プロセスを経由するチオベンズアニリド類からのベンゾチアゾール合成においては,パラジウムの再酸化システムとして過剰量の金属塩および第4級アンモニウム塩の組み合わせを用いなければならないという欠点があった.これを解決するため申請者は,酸素分子(O_2)を本プロセスにおける酸化剤として用いることを計画した.O_2は低毒性かつ扱いが容易であり,有害な副生成物を与えないことから,非常に理想的な酸化剤のひとつとして捉えることが可能である.様々な条件検討の結果,本ベンゾチアゾール合成においても基質適用範囲の広い触媒系を確立することが出来た. 以上,本研究により,医薬品化学の分野において重要である2-キノリノン類およびベンゾチアゾール類の新規合成法を確立するとともに,パラジウム触媒を用いたC-H官能基化のさらなる可能性を示すことができたと考えている.
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