ヒトゲノムの全遺伝子配列が解読され、ポストゲノムシーケンス時代に突入した現在、ゲノム配列情報を利用した病気の診断や治療など、様々な研究への展開が盛んに行われている。本研究では、遺伝子を直接認識する機能性人工分子を用いることによって生体内に内在するたんぱく質本来の機能との相互作用を利用することで、人工分子と生体内分子の機能を融合活用する革新的な遺伝子発現制御法の開発を目指している。その方法の一つとして、3本鎖DNA形成に着目した。3本鎖DNA形成を利用した遺伝子発現阻害、変異や修復などの生体内反応を惹起する3本鎖DNA形成分子の探索を行うために、本研究室で開発した人工核酸(WNA : W-shaped Nucleoside Analogues)を基本骨格にその誘導体の合成・評価を行った。WNAは認識塩基部位であるヘテロ環と安定化部位である芳香環をビシクロ骨格に別々に結合させた人工核酸である。 これまで合成し評価した種々のWNA誘導体の結果をもとに、新たに設計を行った。その結果、WNAの変換部位の一つである認識塩基部分に5員環構造を有する誘導体を含んだ3本鎖形成オリゴヌクレオチドにより、非選択的な3本鎖DNA形成に成功した。さらにその結果に基づく新たな誘導体の設計・合成を行った。 さらに、がん遺伝子であるbc1-2遺伝子に対する3本鎖形成オリゴヌクレオチドの設計・合成を行った。3本鎖形成能の評価の結果、このオリゴヌクレオチドは3本鎖DNAを形成することが明らかとなった。さらに、WNAを組み込んだ3本鎖形成オリゴヌクレオチドを用いて、細胞増殖阻害能を検討中であり、予備的な結果ではあるが、阻害効果を示した結果が得られた。
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