研究概要 |
ビタミンD_3はステロイドのB環が皮膚で紫外線照射をうけ電子環状反応を起こして開裂し、プレビタミンD_3となり、さらに体温により[1,7]シグマトロピー転位を起こす結果生成するB-セコステロイド骨格を有する。[1,7]シグマトロピー転位は可逆反応で、ヒト体温でビタミンD_3はプレビタミンD_3との96:4の平衡混合物として存在する。そして、ビタミンD_3の14位をエビ化すると、その異性体であるプレビタミンD_3との熱的平衡が逆転することが知られており、我々はこれを利用して、2位置換14-epi-previtamin D_3の合成、および生物活性評価を行ってきた。ここで、平衡によって微量に含まれるビタミンD骨格をもつ化合物による生物活性への寄与を除くため、本研究では19位のメチル基を除去し、[1,7]シグマトロピー転位が成立しない14-epi-19-norprevitamin D_3誘導体の合成、活性評価を行うこととした。A環合成の出発物質として(-)キナ酸を用い、ビタミンD_3から得られる14-epi-CD環前駆体を用いてカップリング反応を行った。また、2位メチル置換体については、A環2位にエキソメチレンを導入し、同様にカップリングすることにより合成した。これらの生物活性を調べたところ、ビタミンD受容体(VDR)結合親和性は低いにも関わらず、高いオステオカルシン転写活性が見られた。これを精査したところ、測定条件下で化合物の異性化が観察された。すなわち、6,7-cis結合(previtamin D骨格)が6,7-trans結合(tachysterol骨格)へと異性化していることが示唆された。そこで、異性化後の化合物と考えられる、14-epi-19-nortachysterol誘導体の化学合成を行ったところ、上記の異性化後の化合物と一致し、VDR結合親和性、およびオステオカルシン転写活性について共に高い活性が認められた。これらの誘導体はtachysterol骨格の医薬品としての新たな可能性を示すとともに、超高齢化社会で重要な骨粗霧症治療薬の基となる新しいセコステロイド骨格につながるものと考えられる。
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