連続した不斉四級炭素を有する天然物の効率的合成法の開発を研究課題として、有機合成上およびバイオケミストリー上重要な二つの天然物の合成に着手した。 (1) プラテンシマイシンの合成研究 : 既知のシクロペンテノンにジアステレオ選択的マイケル付加反応によりジエノフィル部分に対応する側鎖を導入し、ケトンのカルボニル基を増反させジエンへと変換しDiels-Alder反応前駆体を合成した。途中過程で、ケトン基にHorner-Wadsworth-Emmons反応で用いられる求核剤を種々の条件で作用させると脱離反応が進行する問題が生じた。ビニルマグネシウムを原料の溶液に滴下させることで付加反応を進行させ、転移を伴う3級アルコールの酸化などを経て問題を解決した。分子内Diels-Alder反応は、前駆体の溶液を200℃まで加熱することで進行し、四級炭素を有する三環性化合物を高い選択性で与えることを明らかにした。 (2) シマラクトンのビシクロラクトン部分の合成 : 近年ユニークな反応性やキラル配位子を用いた不斉触媒的反応への応用の観点から、再注目されているジアゾ化合物からのカルベン錯体の形成とその反応を利用した方法を適用し検討した。α-アゾ-β-ケトエステルに種々の条件で環化反応を検討した結果、2価の銅のヘキサフルオロアセトアセテート錯体が適していた。収率および選択性の向上を目指し、『フェニルチオ基の硫黄原子の電子密度あげることで、イリド形成が促進される』という仮説を立て、ベンゼン環上に電子供与基を有する化合物を合成し環化反応を精査した。意図に反し、興味深いことに、シクロプロパン化が主として進行する結果を与えた。
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