研究概要 |
平成21年度(~平成22年3月31日)の研究実施計画に沿って,今年度は固相担持性性水銀触媒を活用した藻類成長促進因子タルーシンの誘導体合成を行った,構造活性相関研究を見据えて,まずタルーシンに特徴的な連続炭素環骨格に着目した誘導体合成に着手した.そして,新たに開発した固相担持性水銀触媒を用いたポリエンカルボン酸のタンデム環化反応を鍵段階とする簡便な誘導体合成法を確立し,計5種類の誘導体合成を達成した.また,確立した合成手法を天然型タルーシンの全合成に応用することで,13段階,総収率21%のグラム合成を達成することも出来た.さらには,合成したタルーシン誘導体の活性評価を並行して行うことで,その中から天然型タルーシンとは逆の性質(藻類生長抑制作用)を示す誘導体を見出すことも出来た.一般的に世界各地の海洋を生息域とした膨大な数量の大型緑藻類は,海水の浄化と水質を維持する上で極めて重要な役割を担い,海洋生態系の主要な歯車として機能している.そのため,時には人的な海水汚染や海流異常が引き金となって,ある海域や沿岸では藻類が異常増殖し,他の生物を死滅させる赤潮や緑潮(グリーンタイド)を引き起こす.このような背景を踏まえれば,今回タルーシンの誘導体合成を通じて見出すことができた藻類生長抑物質は赤潮や緑潮の原因となる海産性藻類の新たな過剰発生防止剤として応用できると考えている.
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