陽電子放出核種(PET核種)の多くは、半減期が短く多様なPETプローブの発には局'かつ効率的な反応が重要となる。そこで、特にgalium-68とcarbon-11に着目し、標識のための新手法としてベンザインやラジカルという不安定な化学種を利用した以下の反応開発を行った。 既に昨年度、gallium-68標識に向けて、ベンザインを鍵化合物とした金属フリークリック反応を見出しており、同時にベンザインとDMFからサリチルアルデヒド類が得られることも明らかにした。これを発展させ、前者についてクリック反応の適応範囲を精査した。その結果、反応系内に水酸基やアミノ基が共存すると、その共存量により反応前駆体が回収されたりベンザインに水酸基やアミノ基が付加したりして目的のクリック反応が進行しないことが明らかとなった。一方、後者について、サリチルアルデヒドが生成する機構に興味を持ち、新たな反応の開発に繋げるため、DMFと共に種々の試薬を加えた条件を精査する一方で並行して計算化学的手法を用いて反応中間体の探索を行った。その結果、DMFはホルミル化剤として働いているのではなく、ベンザインとカルボニル基の[2+2]環化付加反応を介してベンゾオキセテンを形成し、これが加水分解によりサリチルアルデヒドが得られていることが判明した。この結果は、これまでに有用な例は少なく、今回、DMFに有機亜鉛試薬を併用した条件下、アミノフェノール類を得る反応として詳細を論文にまとめるに至った。 また、ラジカル反応を利用したcarbon-11標識に向けて、ハロゲン化アルキルを用いたラジカル付加環化反応を検討した。ラジカル受容体として、性質の異なる二重結合を有する分子を用いた結果、特に、ヨードパーフルオロアルカンによる反応ではラジカル受容体の電子的性質や立体的性質を元にした位置選択的な反応が起こるという興味深い知見を得たので、これを学会で発表した。
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