陽電子放出核種として特にgallium-68とcarbon-11に着目し、標識のための高速反応として、ベンザインやラジカルという不安定な化学種を利用した以下の反応開発を行った。また、CO2の捕捉を目的として、光反応を利用した酸化還元反応を行った。 前年度、ベンザインとDMFが[2+2]型反応を介してサリチルアルデヒド類が得られること、不安定なベンゾオキセテン中間体を有機亜鉛試薬で捕捉できることを明らかにした。ベンザインとともに[2+2]型反応中間体も同様に不安定な化学種であり、本年度は、この[2+2]型反応を発展させるべく反応を検討した。その結果、反応系内に活性メチレン化合物を共存させた際に、高収率でクロメン類やクマリン類など単一の生成物を得ることが出来た。さらに、ベンザイン、DMF、活性メチレン化合物A、Bの四成分反応にも成功し、複雑な生成物を高収率で得ることが出来た。室温、中性条件下でのこうした反応はこれまで報告例がなく、厳しい条件に耐えられない基質でも利用できる非常に有用な成果と考えられる。これらの結果は、計算化学的な考察を加えて詳細を学会で発表し、合わせて論文にまとめた。また、[2+2]型反応中間体を介したクリック型反応を検討したが、収率は中程度にとどまり更なる改善が必要であった。また、ラジカル反応について、前年度の知見を元に本年度は、添加剤や溶媒の効果を明らかとし、合わせて不斉反応へと展開し、これを学会で発表した。含フッ素化合物は、医薬品や農薬として有効性の高さが知られており、位置選択的および立体選択的な反応の開発は当該医薬品類の合成を可能にする点で重要である。さらに、carbon-11だけでなくfluorine-18標識にも展開可能な点でも重要な反応である。また、光反応について、新たにTiO2を用いた芳香族ケトン類の効率的な還元に成功し、詳細を学会で発表するとともに論文にまとめた。
|