研究概要 |
von Willebrand factor(VWF)は、速い血流下の血小板凝集反応を担う巨大な多量体タンパク質である。VWFの活性と多量体形成度には相関があり、プロテアーゼADAMTS-13はVWF-A2ドメイン内のTyr^<1605>-Met^<1606>の間を特異的に切断することでVWFの活性を調節している。しかし、A2ドメインの結晶構造では切断部位は内部に埋もれており、切断の際にはA2ドメインの構造が血流依存的にアンフォールドすると考えられているが、その詳細は不明である。本研究では、A2ドメインが切断部位を露出させる機構と、アンフォールドしたA2ドメインをADAMTS-13が特異的に認識・切断する機構を、構造生物学的に解明することを目的とする。前年度までにA2ドメインの酵母(P.pastoris)発現系を構築した。本年度は、^<13>C,^<15>N標識を施したA2ドメインを調製し、各種三重共鳴実験によりA2ドメインの主鎖連鎖帰属を行った。その結果、A2ドメインの主鎖アミドシグナルの80%を帰属することに成功した。A2ドメインに低濃度の変性剤(Urea)を滴定したところ、Urea濃度依存的な化学シフト変化が観測された。化学シフト変化は、ADAMTS-13切断近傍に存在するα3・α5ヘリックス、およびα4-lessループ近傍に観測された。また、A2ドメインの異核NOE実験において、同様の領域が高い運動性を示した。以上の結果から、運動性の高いA2ドメインのα4-lessループ付近は物理的な力によってアンフォールディングが誘起され、その結果ADAMTS-13切断部位が露出することが示唆された。
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