研究概要 |
低体重児における先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の臨床現場における簡易な分析を目指して,水系移動相のみを用いる温度応答性クロマトグラフィーシステムの開発を目的とした.本研究ではまず,温度応答性クロマトグラフィーにおける実試料分析のモデル実験としてサル血清中プロポフォール(麻酔薬)の分析法の開発を行った.N-イソプロピルアクリルアミドとブチルメタクリレートを共重合させて得られる温度応答性ポリマー[P(NIPAAm-co-BMA5%)]は20℃に相転移温度(LCST)を有していた.これを粒径5μmのアミノプロピルシリカゲルに結合したものをステンレスカラムに充填し,分析用カラムとした.移動相に水のみを用い,カラム温度を変化させてプロポフォールの分析を行ったところ,LCSTを境に大きな保持時間の差が観測された(>LCST;保持延長).実試料分析ではまず,サル血清(80μL)に内標準物質を添加した後,固相抽出で精製を行った.メタノールで目的画分を溶出後,蛍光検出HPLCで分析した.検量線は0.08~10μg/mLの範囲で良好で同時再現性も満足しうるものであった.開発した方法で得られる定量値を従来の逆相HPLCで得られるそれと比較したところ,両者は良好に合致し,温度応答性クロマトグラフィーシステムの臨床現場への適用が可能なことが示唆された.さらにクレチン症のバイオマーカーであるトリヨードサイロニン(T3)の分析を行ったところ,内因性夾雑物との分離が可能であった.この結果から温度応答性クロマトグラフィーによるT3分析の可能性が示唆された.本法は移動相に水を用いることから,従来法で問題であった有機溶剤による患者や医療従事者への暴露や有機廃液の問題が解決できるため非常に有用な分析法が開発できたと考えられる。
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