研究概要 |
細胞壁合成に関与するD-Ala-D-Alaリガーゼ(DDL)は,D-サイクロセリン(DCS)により阻害される。しかしながら,DCS生産菌から取得したDDLは,DCSによって阻害を受けにくく,自己耐性因子のひとつとして機能していた。本研究では,DCSをリード化合物とした新規の感染症治療薬の開発に向け,DCS耐性DDLの薬剤耐性機構を原子レベルで明らかにすることを目的とした。種々のDDLのアミノ酸配列を比較すると,活性中心近傍に存在するアミノ酸残基は高度に保存されている。しかしながら,DCS感受性DDLの代表例である大腸菌由来DDLでは,保存されたTyr210残基が2番目のD-Alaを収容するポケットに存在するものの,DCS耐性DDLにおける対応する残基はPhe246であった。このPhe246残基がDCS耐性に寄与しているとの仮説を立て,本残基をTyrに置換した変異体を作製した。この変異体を発現する大腸菌株は,野生型を発現している大腸菌株に比べDCS感受性になっていた。また,変異体を精製し酵素学的パラメーターを求めたところ,D-Alaに対する親和性が著しく減少し,DCSに対する親和性はやや増加していることが明らかとなった。一方,大腸菌DDLのTyr210残基をPheに置換すると,この変異体を発現する大腸菌株は,野生型を発現している大腸菌株に比べDCS耐性になった。また,変異体を精製し酵素学的パラメーターを求めたところ,D-Alaに対する親和性はほぼ変化せず,DCSに対する親和性がやや減少していた。これらのことから,DCS耐性DDLのPhe246がDCS耐性に関与していることが明らかとなった。また,DCSの生合成中間体はDCS類似化合物として使用できるのではないかと考え,DCSの生合成機構を明らかにした。
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