生きている一つの細胞内の特定部分のみをマイクロサクションし、代謝物の細胞内局在がわかる新たな分析法の開発を行った。 1. 1細胞質量分析用ナノスプレーチップ・測定条件の検討 これまでの1細胞質量分析では主にアミノ酸などの代謝物をターゲットとして測定条件の最適化を行ってきたが、この条件では細胞膜などを構成する脂質分子の検出はできなかった。そこでトラップした膜成分を効率良く可溶化・イオン化させ、質量分析できる条件の検討を行った。さらに質量分析計における分析条件の検討を行い、脂質分子を感度良く検出できる条件を決定した。これらの結果からホスファチジルコリンやホスファチジルイノシトールなど、様々な種類の脂質分子を1細胞から検出することが可能となった。 2. マスト細胞を用いた顆粒・細胞質内特異的分子探索 ラット由来肥満細胞モデル(RBL-2H3細胞)内に存在する顆粒部位および細胞質部位を選択的にマイクロサクションし、質量分析を行なったところ、顆粒特異的なピークとしてヒスタミンとその生合成経路の前駆体であるヒスチジンが検出・同定された。この結果からヒスチジン及びヒスタミンの代謝物についてRBL-2H3細胞内における局在を解析したところ、メチルヒスチジンなどのヒスチジン代謝物のほか、メチルヒスタミンやイミダゾールアセテートなどのヒスタミン代謝物が顆粒サンプルから検出された。さらに安定同位体ラベル化ヒスチジンを細胞に処理したところ、これらの代謝物のラベル化体が時間経過とともに増加することを確認した。これらの結果より、顆粒内にはヒスチジンからヒスタミンへの生合成のほか、ヒスチジン・ヒスタミンの代謝経路が存在していることが分かった。 以上の結果より、本方法により細胞内部位特異的な分子を質量分析し、検出・同定することができた。しかしこれらは主に低分子化合物であるため、タンパク質などの高分子は現状ではまだ検出が難しい。そこで今後は1細胞サンプルの分離法・条件の検討、プローブの検討などを行い、タンパクのイオン化効率の向上が必要と考えられる。
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