続発性アミロイドーシスにおいて沈着するアミロイドの前駆体は急性相反応蛋白質として知られる血清アミロイドA(SAA)である。血中で大部分のSAAは高密度リポ蛋白質(HDL)と結合して存在することから、アポリポ蛋白質として分類される。SAAは、炎症時にその濃度が正常時の1000倍にも増加し、その大部分がHDLに結合するため脂質代謝に影響を及ぼすと考えられる。しかしながら、正常時におけるHDLの主要構成蛋白質であるアポリポ蛋白質A-Iに比べて生理的機能や立体構造の解明が進んでいないのが現状である。そこで本研究では、炎症時の脂質代謝におけるSAAの役割について分子論的な立場から解明することを目的として実験を行った。 まず、SAA分子中に存在する各アミノ酸残基の疎水性度を表すハイドロパシープロットから、最も疎水性が高いと考えられるN末端(1-27残基)と中間(43-63残基)領域、及びアミロイド化する際に切断されるC末端(77-104残基)領域をFmoc固相法によって合成し、HPLCにより精製した。蛍光や円二色性(CD)などの分光学的測定、あるいはゲルろ過分析によってそれらの脂質結合性を評価した。その結果、N末端領域のみが脂質結合能を有することが分かった。さらに、N末端(1-27残基)領域中に存在する7残基目のロイシンをプロリンに置換すると結合能が低下し、最N末端領域のαヘリックス構造がSAAの脂質結合に重要な役割を果たすことを明らかにした。我々は、同様の手法を用いてアポリポ蛋白質A-Iの脂質結合についても研究を行っており、それらの競合メカニズムに関しては現在検討中である。また今後は、アミロイド線維形成機構に関しても並行して研究することで、疾患発症における脂質代謝との関連について明らかにしていく予定である。
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