研究概要 |
過酸化水素(H_2O_2)が脳傷害時の細胞間情報伝達分子として働いている可能性を検討するため、ラットの大脳皮質線条体領域から作製した脳スライス培養系を用い、H_2O_2による細胞傷害ならびにケモカインMCP-1の産生に着目して検討を行った。H_2O_2はその濃度依存的に細胞傷害およびMCP-1産生を惹起し、主なMCP4産生細胞はアストロサイトであった。この細胞傷害およびMCP-1産生の詳細なメカニズムを明らかにするため、ラジカル消去薬エダラボンの効果を検討したところ、エダラボンはH_2O_2による細胞傷害を濃度依存的に抑制する一方で、H_2O_2によるMCP-1産生には全く影響を与えなかった。そこで、他のラジカル消去薬あるいはラジカル生成抑制薬によっても同様の効果が観察されるかどうかを検討した。ラジカル消去薬ジメチルチオウレアは、エダラボンとは異なり、H_2O_2による細胞傷害およびMCP-1産生の両方を濃度依存的に抑制した。また、H_2O_2からヒドロキシラジカル(・OH)への生成に必要な鉄のキレート剤2, 2'-dipyridylも、細胞傷害ならびにMcP-1の産生を抑制した。これらの結果から、H_2O_2による細胞傷害は、・OHの生成を介した作用であることが示唆された。一方、ジメチルチオウレアや2, 2'-dipyridylがMCP-1産生を抑制するにもかかわらず、エダラボンが抑制作用を示さなかった理由については今のところ不明であり、そのことが脳保護薬としてのエダラボンの薬理作用機序に関わるか否かも含めて今後の検討課題である。
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