われわれは神経系細胞におけるERK5の生理的な意義について検討を加えてきた。まず、神経細胞のモデル細胞のPC12細胞をNGFで刺激しERK5あるいはERK1/2依存的に発現が誘導される遺伝子群をマイクロアレイ法で網羅的に調べた。その結果、NGF4時間刺激により482個の遺伝子の発現レベルが3倍以上促進された。さらにU0126でERK1/2シグナルを抑制すると、482個中360個の遺伝子(75%)の発現レベルが50%以上抑制された。また、BIX2189でERK5シグナルを抑制すると、482個中336個の遺伝子(70%)の発現が50%以上抑制された。ERK1/2非依存的かつERK5依存的に発現が誘導される遺伝子は57個(12%)だった。そこでわれわれはERK5選択的に誘導される遺伝子の一つ(gene X)に注目し研究を進めた。NGFは刺激後1時間をピークにgene Xの遺伝子発現を時間依存的かっ濃度依存的に誘導した。またsiRNA法によりERK5発現をノックダウンさせたところ、NGFによるgene Xの発現が抑制されることを確認した。さらにgene Xの遺伝子発現をsiRNA法でノックダウンしたところ、NGFによる神経突起伸展作用が部分的に抑制され、チロシンヒドロキシラーゼタンパク質やニューロフィラメントタンパク質の発現レベルも低下することが明らかになった。つまり、NGFはERK5を介してgene Xの発現を誘導し、神経細胞の分化を誘導しているものと思われる。
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