研究概要 |
細胞核内において非受容体型チロシンキナーゼと相互作用するタンパク質の同定を目的として、報告されている方法(Methods Enzymol, 370, 430, 2003)に従って、HeLa S3細胞より核局在型Lynを含むタンパク質の複合体を精製し、その構成因子を質量分析によって決定し核局在型Lynの相互作用タンパク質を同定した。一方で、核局在型Lynを安定に発現する細胞株は姉妹染色分体の分配とDNA傷害剤存在下でのG2/M期の進行に異常を示した。いずれの表現型もキナーゼ活性依存的であり、核内において非受容体型チロシンキナーゼが細胞周期とDNA損傷応答に関与している可能性が示された。また核内移行することが知られている受容体型チロシンキナーゼの一つであるErbB4の細胞内ドメインを核局在化シグナルとの融合タンパク質として安定に発現する細胞株を樹立した。今後、核局在型Lynと同様の手法によってErbB4の核内の相互作用タンパク質の探索をおこなっていく。 近年受容体型および非受容体型チロシンキナーゼが核内に移行することが示され、その細胞核機能への関与に興味がもたれているが、その機能と分子メカニズムはいまだに未解明な点が多い。今回非受容体型チロシンキナーゼの一つであるLynの核内における相互作用タンパク質が同定され、また細胞周期とDNA損傷応答に関連する表現型が確認されたことは、それぞれのプロセスにおいて非受容体型チロシンキナーゼによる制御が存在する可能性を示している。今後、これらの表現型とタンパク質-タンパク質相互作用、双方の解析と比較検討によってチロシンリン酸化による細胞核機能制御の解析が大きく進展することが期待される。
|